大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和52年(く)50号 決定 1977年5月04日

少年 M・R(昭三五・一・二三生)

主文

本件抗告は棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年作成名義の抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

抗告趣意中事実誤認の主張について

論旨は要するに、原判示第一〇の窃盗の非行事実について、同判示の物件を窃取したことはなく、窃盗本犯Aから、同判示の物件のうち腕時計一個を除く物件を収受したにすぎない、というのである。

そこで記録を調査し、当審における事実取調の結果を参酌して検討すると、原判示第一〇の非行事実の要旨は、「少年は、昭和五二年一月一五日午前一時三〇分ころ、高崎市○○町××○ウ○ナ○リにおいて、○塚○二○所有の腕時計一個、自動車運転免許証一通、マネー・カード一枚、キャッシュ・カード二枚、身分証明書(原決定に身分証明書一通とあるのは、明らかな誤記と認める。)、印鑑一個、名刺入れ一個、自動車キイ一個(時価合計一四万五、四〇〇円相当)を窃取した」というのであるが、少年は、検察官による取調及び原審審判廷において、右の非行事実を全面的に認めており、当審に至つてはじめて所論のごとき弁解をなすに至つたにすぎないことが認められる。しかし他方記録中の関係証拠によると、右窃盗の被害者○塚は、右同日同所において、原判示の物件のほか、普通預金通帳一冊、UCカード一枚、ノート一冊の盗難被害にかかつていること、ところが少年は、警察官による取調の際に、右窃盗の非行事実を認めながら、被害品のうち、腕時計、普通預金通帳、UCカードについては、窃取した憶えはない旨供述しており、現に○塚の被害物件のうち、右三品及び少年が帰宅途上で投棄した旨供述する自動車運転免許証、ノートを除く物品が、いずれも少年の他の窃盗による賍品とともに少年宅で発見され、自動車運転免許証も後に他の場所で発見されるに至つているのにかかわらず、右腕時計、普通預金通帳、UCカードはいずれも発見されていないこと、少年は、当裁判所受命裁判官による審尋において、本件犯行当日、○ウ○ナ○リの入口で知り合つたAと自称する大学生風の男とともに入浴し、少年より一足先に入浴を終えたAのあとを追つてロッカー室に赴いたところ、同人が他人のロッカー内から物を窃取中であり、その現場を少年に目撃されたAから「これをやるから黙つておけよ」といわれて賍品のうちの自動車運転免許証等を貰い、そのまま同人と別れた旨供述していることが認められ、記録を精査しても、前記少年の自供を除き、他に少年の右窃盗の非行事実を認めるに足る証拠は存在しない。以上の事実に、少年の右供述内容には格別不合理、不自然な点は認められず、またその供述態度も卒直であつて、ことさら虚偽の弁解をしているものと一概に断定することもできないことなどをも合わせて判断すると、少年の右弁解をただちに否定し去ることは必ずしも相当とはいえず、したがつて右窃盗を少年の犯行と断定するについては、なお合理的疑いが残るものといわなければならない。そうすると、原決定は、少年に対する原判示第一〇の窃盗の非行事実を認定した点で、結論において事実誤認を犯したものというのほかないが、右の誤認が、原決定の認定した、少年に対する七個の窃盗、一個の現住建造物放火未遂、二個の有印私文書偽造、同行使、詐欺の、合計一〇個の非行事実のうちの一個の窃盗の非行事実に関するものであることにかんがみると、右誤認は、いまだ少年法三二条にいう「重大な事実の誤認」に該当すると解することはできない。論旨は理由がない。

抗告趣意中処分が不当であるとの主張について

しかし記録を調査すると、原決定が(処遇)の欄において説示するところは、当裁判所も概ね是認することができ、ことに少年は、昭和五一年四月二七日窃盗の非行を犯し、その際は前橋家庭裁判所高崎支部において審判不開始の決定を受けたのにかかわらず、その後同年一一月一六日から同月二三日までの間にさらに窃盗三件(原判示第一、第二、第四)、現住建造物放火未遂一件(同第三)の各非行を重ねて観護措置の決定を受けたうえ審判に付され、保護者らの強い希望もあつて経過観察のため一旦帰宅を許されたが、なお改心することなく、昭和五二年一月六日から同月一一日までの間に窃盗三件(原判示第五、第八、第九)、有印私文書偽造、同行使、詐欺二件(同第六、第七)の非行のほか、少年の前記弁解によつても、賍物収受の非行一件を累行するに至つており、窃盗の手口も次第に積極かつ大胆化していることなどにかんがみると、その非行性は相当深化した状態にあるというべきであり、これらの事情のほか、少年の性格上の偏向、保護者の保護能力の限界等、記録によつて認められる一切の事情を総合すると、もはや在宅保護により少年の健全な保護育成、その性格の矯正を期することは、非常に困難な状況にあると認めるほかなく、この際少年を収容保護処分に付することは、まことにやむをえない措置であるというべきである。したがつて、少年を医療少年院に送致する旨の原決定は相当であると認められ、著しく不当であるとは到底いえない。論旨は理由がない。

よつて少年法三三条一項後段、少年審判規則五〇条により本件抗告を棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 石田一郎 裁判官 小瀬保郎 南三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例